大学以降の学習

超弦理論の物理を楽しむために

殆どの人は何らかの目標を持って、数学や物理を勉強していることと思います。

私がかつてそうだったように、現在大学生で将来数学や物理の研究をしたいと思って今勉強している人もいるでしょう。

一方、今の私のように社会に出ても、数学や物理が好きで学び続けている人や今まで数学とか物理とか難しくてあまり触れてこなかったという方でブルーバックスなどの一般書では満足出来なくなった方もいるかもしれません。ちなみにリンクになっているブルーバックスは大栗先生の名著ですので読んだことがない方は是非ともお勧めいたします。

ここでは、その勉強の目的の一つとなり得るであろう現代物理学で最も難しい数学が使われているとされる超弦理論の楽しみ方について語っていこうと思います。

私は超弦理論の専門家ではありませんが、弦理論を物理側の到達点としてみたときの各分野の繋がりについて本当に軽く紹介してみたいと思います。

良く聞かれることに超弦理論は物理ですか、それとも数学ですかという質問があります。これには色々立場によって変わることもあるとは思いますが弦理論とか、超弦理論という時には99%物理の分野のことです。超弦理論という数学の分野はありませんからね。

超弦理論を元に発展してきた数学で最も有名なものの一つとしてミラー対称性という分野を挙げておきます。非常に難解な数学の分野です。

今回は物理的な動機があって超弦理論を学びたいという人向けの内容にしたいと思います。

物理における超弦理論の位置付け

ここでは長々と超弦理論の歴史とかを語るつもりはなくて、次の二つの疑問に答えて行く形を取ろうと思います。

何で超弦理論やりたくなるのか

超弦理論を理解する過程にはどんな楽しいことがあるのか

超弦理論の魅力

私が感じる超弦理論の魅力は大きく2つあります!

物質の最小単位である素粒子は0次元の点ではなく、1次元の自由度を持つひもであり、相対論に矛盾しないように作るとこの宇宙の次元まで決定してしまう究極の理論だから。
超弦理論を記述する数学も最高にかっこよくて、例えば超弦理論の余剰次元はカラビ・ヤウ多様体と呼ばれる2つの幾何学的対象でこれらは複素代数幾何学とシンプレクティック幾何学を統一的に記述する幾何学の存在を示しているから。

但し難しすぎて、定義とか眺めているだけで結構お腹いっぱいになります笑

超弦理論を理解するためには、それまでの勉強を如何に楽しむかが挫折しないポイントになります。

何でもそうですが、わかるところから勉強を始めるわけですし、短期目的、中期目的、長期目的をしっかり立てて取り組まないとわからないことが出て来たときに辛くなります。そうでなくてもすぐに今なんのためにこんなこと勉強してるのかなって思うことは多いです。

あんまり面白くないなって思ったら別なことや自分が面白いと感じることを勉強した方が精神的にも良いですし却って早かったりします。

超弦理論のために必要な物理

一口に超弦理論のために必要な物理といってもそれはたくさんありすぎて困ります。物理の大学院に進学して素粒子論の研究室に入るのが一般的な超弦理論の研究者になる方法でしょう。そのためには当たり前ですが、大学学部レベルの物理は理解しておかなければなりません。

ここでは楽しむために最低限必要な物理とか、それをやる上でどういったことを楽しめるかについて中心に書いていきたいと思います。

力学について

大学に入って一番初めに勉強する物理も高校と同じでやっぱり力学なんですよね。
大学の物理と高校の物理の一番の違いは高校では誤魔化していた微分方程式と正々堂々と対峙するところです。

力学と一言で言っても大雑把に分けて次の4つに分かれます。

相対論的 非相対論的
現代的 相対論的量子力学 量子力学
古典的 特殊相対性理論 古典力学

分け方によってはもっとあるのでしょうが、超弦理論においてもちろん重要なのは、量子力学です。しかも相対論的な量子力学を更に発展させた場の量子論を勉強する必要があります。独学では量子力学も結構骨が折れますが、場の量子論を簡単に独学出来る人はそうそういないと思います。

脅かすつもりはありませんが大学4年間みっちり物理を勉強した人が毎日一日中取り組んでそれでも(平均的には)1年くらいかけて理解する内容です。道のりは長いので途中の道のりも是非とも楽しめたらいいなと思います。

先ずは古典力学から始めて、次に紹介する電磁気学を勉強した後で量子力学や特殊相対論を勉強していくことをお勧めします。

非相対論的な古典力学はニュートンの運動方程式で全てが記述できる世界のことです。相対論的な古典力学に対応する運動方程式もあります。現代的と書いたのは端的に言えば量子力学のことです。これも相対論的かそうでないかで分かれます。

ここで強調しておきたいのは相対論的といっているのは一般相対論ではないということです。一般相対論と量子力学の統合即ち量子重力理論は未だ完成していない理論物理学者たちの悲願です。

もちろん一般相対論も知っているに越したことはありませんが、最短でやるにはとりあえず飛ばしても大丈夫です。

それでも特殊相対論の理解は必須です。興味深い点は時間が遅れたり、物体が縮んだり直感と反するような現象が起こります。こういう不思議な現象を自分の手で理解できるのはすごく楽しいですし、双子のパラドックスが説明できればあなたは十分に特殊相対論を理解できたと言っていいでしょう。

慣性系でしか運動を記述できないというのが特殊相対論のミソというか限界になります。光速度不変の原理もよく間違って使われるんですけど、どんな観測者に対しても光速度が不変は間違いです。

真空中の任意の慣性系の観測者に対して光速は不変である

というのが正しいです。慣性系でなければ光の速度は変わります。ブラックホールの中から光は出てこれなかったりしますからね。常に光速なら出てこれるでしょう。

量子力学も直感に反する現象がおきますが、そもそもこれまでの力学とは異なり粒子の位置を決める運動方程式ではなく、存在確率を求める方程式を扱うところから違います。

量子力学は線型代数である

こう言われるように基本方程式であるSchrodinger方程式は状態空間と呼ばれるベクトル空間の元に作用する線型写像の話に帰結されます。実際ハミルトニアンと呼ばれる線型写像の固有値と固有ベクトルを求める問題になってしまうからです。

ハミルトニアンは古典力学を体系化した解析力学にも登場します。特に解析力学を量子力学の前に勉強した方がいいというのはこういうところにも理由があります。Diracの量子力学の教科書には解析力学で出てくるPoisson括弧のアナロジーとして正準交換関係を定めています。

解析力学から発展した数学にはシンプレクティック幾何学があります。

電磁気学について

電磁気学は基本的には、古典力学の次くらいに勉強することが多い基本的な分野です。電磁気も力学も基本的と言いましたが、今もこれらについて研究している人がいるので突き詰めると奥が深いわけです。

電磁気学は基本的とは述べましたが、力学で基本的な常微分方程式の解法などに漸く慣れた頃にいきなり、Maxwell方程式とかいう偏微分方程式が4つも出てきて混乱する人も多い分野でもあります。

電場と磁場は統一的に記述できるという発見が最大の驚きで、Maxwell方程式から導かれる波動方程式が光と電磁波の存在を導き相対論の発見にも貢献します。

電磁気学を勉強する一番の目玉は場の理解です。理解というより考え方に慣れる必要があります。
空間の各点に矢印があってそれが時間変化している。それが物理におけるベクトル場の考え方です。

数学でベクトル場といった時には基本的に物理と違って時間変化しないものを考えます。数学でベクトル場とか微分形式やる時には大概曲がった空間上でやることが多いので勉強し始めるのに時間がかかります。一方物理では3次元ユークリッド空間というフラット(簡単)な空間でベクトル解析を学べるので、最初から高度な数学を物理では使っていると言えます。

物理学科生の方が、数学科の学生より高度な数学を使うなんてことが最初の方は特に良く起こります。超弦理論に進むとそれが最後まで変わらないと言ったら気分がわかるかもしれません。

電磁気を一通り勉強して場の考え方に慣れた頃に、相対論とか解析力学を勉強してみると自分の実力が上がっているのを感じて楽しくなるかもしれません。

熱力学・統計力学について

熱力学と統計力学はマクロな視点で物理現象を定式化することに成功したもので、これらの知識ももちろん超弦理論の理解には必要です。

何と言っても温度という物理量は熱力学と統計力学でしか扱うことありません。また熱力学は物理学の中でも、もっとも数学的に記述出来る分野の一つだと言えます。

熱力学第二法則とは、状態空間の任意の点とその任意の近傍に対して断熱操作で到達できない点が存在することである

このように完全に数学の命題として記述することが出来ます。また数学的に厳密に書かれた物理の教科書も多いのが特徴です。

田崎先生の本清水先生の本
には相当数学的に厳密に熱力学が展開されています。

熱力学や統計力学の分野で数理物理の研究を物理側からしてみたいという学生の方にお勧めなのは田崎さんの次の本です。

これが読めれば、研究レベルの実力に結構近づけると思うので、超弦理論の研究よりは前提知識は多くない分野ということは出来ます。もちろんこっちの方が研究者になるのが簡単と言ってるわけではありません。

熱力学と統計力学は興味深い分野ではあるものの、これらは学生でない社会人の方なら最優先して取り組まなければならないものでもないと思います。最短距離で弦理論を知りたいという方にはとりあえずは飛ばしてもいいかも知れません。

場の量子論について

場の量子論とは元々場として考えていなかった粒子なども場の基本変数として記述する理論となっています。先ほど標語的に書いた量子力学は線型代数であるという言葉ではスピンを自然に表現出来ないですが、場の量子論ではスピンも自然に記述出来るという意味でも優れています。

一つの現代物理学の到達点の一つである標準模型の理解が場の量子論によって可能になります。
経路積分は数学的には汎関数積分と言ったりしますが、未だに整備できていません。それでも物理では場の量子論で当たり前のように使うし、場の量子論自身が最先端の数学の宝庫と言っても良いでしょう。

以上簡単ではありますが、弦理論までに学ぶべき物理の話を中心にして来ました。

超弦理論のために必要な数学

物理としての理解が目的なら特別に数学を勉強する必要は特になく、必要に応じて勉強していけば良いというのが大抵の物理の分野ですがこと弦理論についてはそうは問屋が卸しません。

そうは言っても何を研究するかにもよるので、必要な数学は千差万別です。
基本的な線型代数や微積分はもちろん、複素関数論も当たり前ですし今や幾何学とりわけトポロジーやLie群に関する知識が強く求められる傾向が、理論物理学全体にある感じです。

理論物理学を研究するのにどれくらい数学に詳しくなる必要があるのかということを自分が学部生の時には気にしたことがありますが、弦理論とかやるなら別にして基本的に気にしないスタンスで大丈夫だと思います。

例えば弦理論を研究している物理学者は基本的に圏論を良く使っているので、普段数学者との会話に困らない程度に勉強していることは間違いありません。

一方物性理論の研究者で複素関数論の演習を担当してくれた助教の方は、上極限について全く知らなかったようなのでこういう物理学者もいるんだなと何かちょっぴり残念のようなホッとしたような気持ちになったのを覚えています。

数学側から見た超弦理論の話もする予定ですので、詳しい数学の話はそこでしようと思います。

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