大学以降の学習

初学者のための数学書の読み方-効率的な数学の勉強方法とは

最近指導する機会があった数学科の大学2回生にも数学書の読み方がそもそもわからないし、一冊ちゃんと読んだことがないと言われたので動画を作成しました。序でに記事にしてまとめておこうかなと思います。

この記事は大学レベルの数学の本の読み方について説明しています。

数学の本の選び方

先ずはあなたは何のために数学を勉強したいのでしょうか。読みたい本なり論文なりを一冊決めてください。

あなたはそれが今すぐ読めるでしょうか。本ならともかく、論文が読める方ならこんなサイトには来ていないでしょうから、読めない人である前提で話を進めます。

一番最初のページを開けて何が書いてあるかわからなければ、そっとその本は閉じた方がいいでしょう。
わからないならすぐに諦めろというつもりは毛頭ありません。まだその本を読むべきではないだけです。

数学はわかるところから始めなければ意味がないのです。

わからないところがわからないという人もがいるかもしれませんが、大いに結構です。むしろ何がわからないかもわからないと言う状態の読者を想定しています。そういう人は絶対にここまではわかると自信を持って言えるところを見つけることが肝心です。ここで言う絶対にわかると言うことが何を意味するのかが難しく、この記事で少しでも伝えられたらいいなと思います。

ノートを用意して写していこう

本当はと言うか出来ることなら、数学書に書いてある言葉で書かれた定義を略記して自分の言葉で書いたりした方がそのまま丸写しよりも効果が高いです。

しかし数学やり始めの、全く数学書を読んだことのない方がそれをやると、間違った定義を覚えてしまったり、任意の記号と存在の記号を逆にしてしまって違う意味にしてしまう危険性等もあります。

最終的には自分の言葉で話せるレベルで数学が出来るようになれば一番良いのですが、本当の初心者には先ずは内容を正確に写すことが大切です。

写す行為を写経と言ったりします。本来の写経の意味を正確に把握しているわけではないため迂闊なことは言えませんが、数学における写経の目的とは写しながら書いてあることを理解することです。写しているだけでそんなことがあるのかと思われるかもしれませんが、実は本当に効果があって大学以上の数学を本気でやっている人は皆経験していることです。

何はともあれ写経をしないと始まりません。何から写経をすればいいのかを考えている暇があるなら手を動かしてください。一回写経しただけでわからないから辞めるとかは甘えです。だけど今はわからないからとりあえずもう少し簡単な本を読むというのは悪い選択ではありません。その辺が数学をやっていて難しいと感じるところですね。

特に初学者は難易度的な意味で何が自分に合っているかを判断するのが難しいと思います。

先ずは定義から

数学書を開くと大体初めに書いてあるのが定義になります。大抵は大きく定義と書いて丁寧に番号付までされているので見落とすことはまず無いでしょう。もし見落とすようなことがあるならそれはきっと数学書では無い。

定義と大きく書かれずに、さらっと「〜が〜であるとき〜という」のように書かれていることも多いですが。。

定義に書いてある日本語を数学用語をチェックしながらまずは一度読んでください。その中にわからない数学用語があれば先に進まず調べます。但しそれが人生初のちゃんと読もうとしている数学書であるなら、それが何であれ最初に出てくる定義に使われている用語くらいは理解できるものを選ぶべきだとは思います。

読むのが妥当かわからないとか、自分で判断出来なければ周りの自分よりも数学が出来る人に聞いてみるということが恐らく一番いいのですが、この記事を読んでいる方の中には環境的に難しいという場合もあるでしょう。

そこで一つの基準を提案します。それは定義のところだけでは判断出来ないので後ほど述べさせて頂きます。何れにせよ、定義に書かれている数学用語がわからない状態で前に進んでは絶対にいけません。特に初学者の場合は必ず他の本なり、ネットの情報は注意が必要ですが調べてください。(Wikipediaは英語版の方をみることをお勧めします。)

さて定義に書いてある数学用語でわからない用語がない状況に至って初めて、その定義の意味を理解する準備ができたと言えます。一読してすぐに意味がわかる場合はとりあえずノートに写してもう一度眺めてみましょう。

もし一読しただけでは意味がわからない場合は、この場合も一度写しましょう。写すことによって理解できることがありますので、手を動かしてみてください。

定義を読む段階で意味がわからないという状況になっている場合は、おそらく用語がわからないか実感が持てなくて理解した気にならないかどちらかである場合が多いと思われます。

後者の場合はそのまま進み例などを眺めてみたり、書いてある例がなければ自分で考えたりしてみましょう。

例えば、位相空間の定義ならこういう風に書いてあることが多いです。

集合Xとその部分集合の族\mathcal{O}の組(X, \mathcal{O})が位相空間であるとは以下の1, 2, 3が成り立つことである。

  1. X, \emptyset \in \mathcal{O}
  2. O_1, O_2 \in \mathcal{O}ならばO_1 \cap O_2 \in \mathcal{O}
  3.  \{O_{\lambda} \}_{\lambda \in \Lambda} \subset \mathcal{O}ならば\cup_{\lambda \in \Lambda}{O_{\lambda}} \in \mathcal{O}

またこのとき\mathcal{O}のことを開集合系という。また\mathcal{O}の元のことを開集合という。

このとき、例えば部分集合の族という言葉の意味がわからなければこの定義は理解することが不可能です。
ここで言う理解とは、用語の意味がわかるレベルのことを話しています。2.と3.の意味の違いが最初はよくわからなくても最悪大丈夫です。その代わりこの定義は何も見ずにすぐにかけるようにしておく必要があります。

2と3の違いの答えだけ念のために書いておくと、2は有限個の共通部分を取るという操作で開集合は閉じるのですが、無限個の開集合の共通部分は必ずしも開集合になりません。一方3では開集合の和集合を取る操作では無限個の元に対して成り立ちます。

例で遊ぼう!

定義が書かれていると、初学者に易しい本ではその次くらいに例が載っていることが多いです。定義では納得できなかったモヤモヤが例をみると解決することがあります。例だけみても解決しない場合も勿論あるので、この段階で定義に実感が持てなかったとしても諦めるのはまだ早いです。

定義の後で例が載っている本の場合注意する点としましては、その例がちゃんと定義を満たしている例になっていることを確認することです。

これをチェックせずに先に進んではいけません。逆にこれさえチェック出来れば、現状では十分に理解できていると言えます。例もしっかり写経しつつ先に進みましょう!

具体例をここでも位相空間の例であげるとすると、
X=\{a, b, c, d\}という4点集合に位相を定めるなら\mathcal{O_1}=\{\emptyset, \{a\}, X\}は位相になるけど、\mathcal{O_2}=\{\emptyset, \{a \}, \{b, c\}, X\}という部分集合の族はX上の開集合系を定めない。

など、遊びつつ十分に自分で位相の定義を味わうことが大切です。上のようなことが書いてあればなぜそうなるのかをしっかり考えて下さい。そしてここで挙げた例だけでは位相の定義の2., 3.の違いについてはまだよくわからないという状態になるかもしれませんが、そういうまだよくわからないという気持ちを大切にしておいてください。

「こんな例自分で思い浮かばないよ」という方でも安心してください。誰でも最初は例すらも思い浮かびませんし、定義の意味もよくわからないまま読み進めるものです。その代わりそういう状態なら尚更本に書いてあることは出来る限り全て写すことをお勧めします。

命題(定理)の読み方

定義の後に例が書かれていないと次に目にするのは命題でしょう。定理と書かれているかもしれません。
ここでは命題の部分と証明部分の読み方に分けて説明したいと思います。

主張を仮定と結論部分を意識して理解

先ずは、命題の主張をしっかりと吟味します。何が書かれているのかを読んだらここまでに出てきた言葉で意味がわからない言葉がないかをチェックします。こちらもまた定義の時と同様です。

主張の意味がこちらも用語レベルで理解出来れば、先に進んでも大丈夫です。このときの理解のポイントは何が仮定で何が結論であるかをしっかりと自分の中で意識した上で次に進むことです。

証明部分の理解

上に述べた様に、何が仮定で何が結論かを自分の中で整理出来たら証明を読んでいきます。慣れてきたら証明の方針を証明を読む前に考えたりします。自力で証明できれば尚良いですが、ここまで最初から出来る人はなかなかいません。

むしろこんな記事を読んでしまったが故に、証明を理解することさえ難しいのに、証明を自分で考えるなんて不可能だと絶望的な気持ちになるかもしれません。

そう落ち込む必要はありませんし、具体例や証明を思いつくのにも数学の知識は必要です。単に覚えていることを違う場合に適応すればいいだけの場合もあります。

既存の知識を別のものに適応する能力というものは必要かもしれませんが、この辺も訓練次第でいくらでも伸びていきます。

一行一行丁寧にギャップがない様に証明を埋めていくのは最初のうちは特に大変です。何よりわからない箇所が出てくるとすぐに投げ出したくなるからです。

最初は特にどうやって読んでいくのかわからないものですので、辛くなったら散歩なり、なんなりと気分転換した上で写経を繰り返して下さい。一度くらい写経しただけではわからないかもしれません。そういう場合は2回3回と繰り返すことで効果が得られます。

但し、5回ほど証明内容を写経しても理解出来ないなら次に進むべきだと思います。何か勘違いしている可能性は高くそういう時は気分を変えたほうがいいし、そのあとに書いてある例を読むことで気が付くことがあるかも知れないからです。

証明内容が最後まで追えるとなんとも言えない達成感を味わうことができますが、これで証明が理解できたと思うのは時期尚早です。

定義から命題の証明を自分で構成出来るようになる

これまでの写経は

定義から命題の証明を自分で構成出来るようになる

ための準備に過ぎませんでした。これこそが数学やる醍醐味というか圧倒的な数学力が自分に身につく方法でした。出来るようになった。理解したという満足感がかなりあります。

例えるなら補助輪付きでしか自転車に乗れなかった人間がそもそも補助輪を外すということを思いつきさえしなかったのに、補助輪を外して自転車に乗れるようになった。それくらい素晴らしい体験が得られます。

そこに到達するためには、次のことが必要です。

  1. 定義を何も見ずに話せる
  2. 定義に該当する例を少なくとも1つ思いつく
  3. 命題の主張を何も見ずに話せる
  4. 命題の証明を何も見ずに自分の言葉で構成する

この4つをセットで出来るようになることが、数学を最も楽しめる方法であることは確かです。一方最初は中々ハードルが高く感じられる方法でもあると思います。最初読めていた証明が書いてみるとやっぱりわからない。なんてこともザラです。

他の目的で数学を勉強している方例えば、物理をやるために数学を勉強されている方などは特に証明を追うまではしてもこの4つをするほどの手間をかける必要はないかも知れません。

問題は自分がどの程度数学を理解したいかによるわけです。私は一点の曇りもなく理解しながら数学をやるというのが一番気持ちが良いと思いますし、こういう数学の勉強の仕方をお勧めしているだけです。数学のやり方は自由ですが、ここではその最も本格的なやり方を初心者に教えるというスタイルで解説させていただきました。

まとめ

ノートを最初に用意すると述べましたが、先ずは計算用紙などに書き始めることから始めても良いでしょう。つまり最初から綺麗に理解しようとしなくても良いです。綺麗に書こうとし過ぎるためにノートに書けないというのでは本末転倒ですし、最後に綺麗に書くなら自分で構成出来るようになってから何も見ずに書くということが大事なのかなと思います。

数学書のレベルが自分にあっているかを確認する方法を以下にまとめておきます。

  • 一通り証明までは読んでみる。
  • その際用語の意味は絶対把握した上で進む。
  • 出来れば例で遊んでおく。
  • 証明はわからなければ飛ばしても良い。

ポイント
基本的に定義の理解から命題前をセットでこなしていき、何回も連続で証明を飛ばさないといけないという緊急事態に陥ればその本は一度諦めてもう少し簡単な本か同じ種類の別の本にはもう少しわかり易い証明が書かれている可能性もあるのでそちらを読んでみるという対策が挙げられます。

ここから先の部分つまりどうやって自分の言葉で数学を構成していくのかについてはしっかりと定義を暗記して、構成をまでを自分で考えないといけません。

一般に万人にとって良い数学書の読み方なんてものはありませんが、ここで紹介した読み方は少なくとも王道と言えるものの一つだと思います。まだ本格的に数学を勉強したことがない方は、このようなやり方で取り組んでみるのが一つ数学が出来るようになる近道になるのではないでしょうか。

こうした数学書の読み方も私は人に教えられたというよりかは自分で独学で身につけていったため、時間がかかりました。何よりどう読めばいいかわからずに、適当に読んでいたため勉強してもあまり身に付いていなかったという経験があります。

数学書の読み方という視点とはまた異なりますが、東大数理の古田幹雄先生の大学院で幾何の勉強を目指す学部生の方たちへというpdfは非常に参考になります。

また同じく東大数理の河東先生のセミナーの準備しかたについても非常に参考になりますのでリンクを貼らせていただきます。学部に入ったときに知っておきたかった。

誰か自分の発表を聞いてくれる人がいればいいですが、必ずしもそういう環境がある人ばかりではありません。そういう人には一人セミナーというのをお勧めします。

文字通り一人で誰かに発表するつもりで予習をして自分で決めた命題の証明まで何も見ずに発表するのです。たとえ聴衆がいなくてもいる前提で誰かに向けて発表するというのが大切です。詳細についてはいくらでもやり方はあると思うので、そういう数学の勉強方法について質問などあればお聞きしますので、良かったらコメントなり問い合わせなりで是非ご連絡ください。

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